マレーシアの英語能力指数、域内で第2位

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11月11日、EF Education Firstより非英語圏を対象とした『英語能力指数』が発表された。マレーシアは70ヵ国中14位で、前年の12位から2つ順位を落としたものの、英語力が高いグループとされている。また、アジア域内においてはシンガポールに次ぐ2位となっており、英語能力の高さが示されている。

EF EPI 2014-English from EF Education First on Vimeo.


[EF EPI 2015 アジア諸国ランキング]
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[アセアン主要国のEF EPIランキング推移]
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マレーシアの英語力に対する国際的な評価はまだ高く、英語を勉強するための語学留学先としてマレーシアを選ぶ人達もかなり多いと聞く。ただ、国内における英語能力の評価は年々下降傾向にあり、それによるマレーシアの国際競争力低下に対する危機感は年々増している。特に、2009年にムヒディン・ヤシン副首相兼教育相(当時)が、2012年より理数教科の授業を英語からマレー語に戻すとの政策を発表したことで、事態はさらに悪化する方向へ進むことになったと言えるだろう。当時、マハティール元首相や国民の多くは初等教育での英語力強化を重視、政府政策に反対するデモが実施されるなどしたが、ナジブ政権はこの政策を強行することになった。この背景の一つには、地方における教師の英語力不足から、都市部との間で教育の格差が生じていることが主因とされている。実際、地方では英語で理数教科を教えることができる教師は中学校で19.2%、小学校になると9.96%しかないとされていた。また、マレーシア人としてのアイデンティティを保つためにも、理数教科は国語であるマレー語とするべきというのが政府の基本スタンスであり、英語力については英語の授業時間を増やすなどの措置が採られることになった。同時に中国系の間では、英語での授業だとマレー人の理数教科の成績が伸びないことが問題視されており、これを改善するための措置だったとする声も聞かれていた。

しかし、ここ数年はマレーシアの英語力不足が深刻さを増しており、産業界からは大学卒業者でもまともな英語力が身についていないと指摘されていた。現在、マレーシアには約20万人の未就職卒業者がいるが、雇用されない主因の一つが英語力不足とされており、こうした実情を反映してると言えるだろう。また最近の話題として、数千人の医学生が英語力不足からその道を絶たれたとのニュースが話題になった。きちんとした英語でカルテを書けないなどの学生が急増しているらしい。さらに英語を教える立場の教師についても、数年前のデータとしてCambridge Placement Testで70%のマレーシア人教師が不合格になったことも問題視されている。

産業界においても、エアアジアのトニーフェルナンデス氏は最近のTwitter上で、「Malaysia has lost its competitiveness due to our standards in English going down」と述べ、英語力低下によるマレーシアの競争力低下を指摘している。またMalaysian Trades Union CongressのN. Gopal Kishnam事務局長は、「1980年代は新卒者のほとんどがきちんとした英語を喋れていたが、いまは日に日に悪くなっている」と述べている。私自身、マレーシアの若い会社員と話す機会が多々あるが、大学までの教育で習得した英語力は社会ではほとんど役に立たず、会社に入ってから必要に迫られて英語を覚えたという人がかなりの割合で存在する。世界銀行が2013年に発表した報告書でも、域内におけるマレーシアの教育品質は遅れをとっており、数学と科学におけるパフォーマンス低下、そして英語能力の衰退が挙げられていた。

PEMANDUが今年10月に54,250名を対象として実施した英語教育に関するアンケート調査においても、90%以上が学校における英語教育を拡大すべきと回答している結果が出ており、国民の思惑と政府政策に乖離が生じていることが明らかになった。



こうした状況を受けてか、2016年予算案においてナジブ首相は教育政策を一転、英語力重視に舵をとっている。中でも『Dual Language Programme』では、学校と親に英語かマレー語のいずれかを選択可能としている。取り敢えず、国内300の小学校を対象としたパイロットベースで進められ、理数教科と情報通信技術、そしてデザイン・テクノロジーが対象、政府はRM3,850万の予算を割り当てている。この他にも、地方都市の英語教師不足に対応するため、インドから教師を誘致したり、大学卒業者に対して訓練プログラムを提供するなど英語教育を重視した動きが活発化している。こうした政策に際してナジブ首相は、「好むと好まざるに関わらず、今日の世界で英語は必要条件であり、英語なくしてはマレーシアは『jaguh kampung(ホームグランドチャンピオン)』でしかなく、国際市場に参入する能力を欠くことになる」と言及。それでも、マレーシア政府が目指しているのは『Upholding Bahasa Malaysia and Strengthening English (MBMMBI) 政策』であり、英語中心の政策ではない。大学卒業生の英語力向上を目的として設立されたSpecial Task Forceでのアナウンスでも、「卒業生は2つの言語、つまりマレー語と英語で自分を表現できなければならない」としている。



マレーシアは多民族国家であるがため、英語+マレー語、英語+中国語、英語+タミル語といったように、英語+民族の言語が一般的に通用している。これが、国際競争におけるマレーシアの優位性であり、他国が簡単に真似できない特徴だと思われる。零細企業であっても国境を超えたビジネスを容易に展開できる環境にあり、私自身もそういった経営者を多く見てきた。単にマレー語+英語では、今のような価値を提供できなかっただろう。そのため、中国語やタミル語についても積極的に教育を受けられる環境を整備する必要があるように感じる。

実際、子供の初等教育においても、多くのマレー人家庭が中国系の学校を選ぶ傾向にあり、オールAで卒業したマレー人の児童もいる。ある中国系小学校では、以前は数人しかいなかったマレー人児童が、いまでは半数を占めるまでに至っているケースもある。私の子供が通う中国語の塾にも、マレー人とインド人の子供が中国人と一緒に通っている。彼らの家庭は富裕層という訳ではないが、親が多言語の重要性を認識していると言えるだろう。ここに、政府政策と国民の目指す方向性に乖離が生じているのを見ることができる。

政府はようやくこの状況を真剣に受け止め、方向性の転換 に踏み切った格好となっている。とは言え、教育政策においては奨学金や海外留学などでまだまだマレー人優遇と思われるものがあり、改善の余地は多々存在する。不平等な政策により、実力や能力に伴った選択ができない環境と言えるかも知れない。この部分が改善されれば、マレーシアの人的資源に対する魅力は高まり、国の競争力にも反映されるだろう。

今回、政府が英語能力の重要性を示したことは歓迎すべきことであり、今後どのように全国規模で実装されて、成果として現れるか楽しみでもある。


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ナジブ首相、2016年度予算案を発表

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10月23日、ナジブ首相は下院議会において2016年度の予算案を発表(ナジブ首相スピーチ全文)。全体的に見ると、財政赤字の削減に重きが置かれている印象が強く、個人的には目を引く内容に乏しいように感じる。メディア各社の報道を見ても、2016年度予算の目玉が低所得者向補助金『1Malaysia People's Aid (BR1M)』の増額と指摘されており、年々注目すべき事項が少なくなっているようにも。






[低所得者向補助金の推移(RM)]
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(*はBarisan Nasionalが2013年のマニュフェストで示した数字)

発表によると、2016年度の予算規模はRM2,672億となっており、2015年度からはRM65億の微増に。一般歳出はRM19億増のRM2,152億、開発支出がRM46億増のRM520億。また歳入はRM32億増のRM 2,257億の見込み。GST導入による政府収入はRM390億(2015年の目標額はRM270億)を見込んでおり、ナジブ首相は石油価格下落によるペトロナスからの歳入減などの外部環境の厳しさを説明、その上でGST導入は正しい選択であったと強調している。

以下に、今回の予算案発表で気になった項目を列挙している。

まず、2016年度予算の柱として、国民繁栄のために以下の5項目がプライオリティに据えられている。

1.経済回復力を強化
2.生産性、イノベーション、グリーン技術向上
3.人的資本のエンパワーメント
4.ブミプトラアジェンダを推進
5.国民の生活費緩和

次に、カテゴリー別に主要項目における予算割り当て内容を分類。

国内、民間部門の開発
-RM67億の価値がある9つの高インパクト国内プロジェクト
-化学産業、電気・電子機械、航空、医療機器、サービスの開発向けにRM7.3億。
- Aims for 30% women involvement in decision-making levels in public and private sector.
公共部門と民間部門において、意思決定レベルにおける女性の参加で30%を目指す。

経済
-観光でRM1,030億の寄与を期待(米国、中国、インドなど7ヶ国へe-VISA発給)。そのために、観光文化省へRM12億割り当て。
-農業の近代化のために、農業・農業関連産業省へRM53億割り当て。
-マレーシアは13ヶ国と自由貿易協定に署名しており、政府はTPPAを原則受け入れる。

中小企業と起業家精神
-2020年までにマレーシアの中小企業の寄与を41%に引き上げ。
-起業家を支援する中小企業銀行にRM5,000万を提供。
-変革プログラムTUKARとATOMへRM1,800万を割り当て。
-TEKUN、ブミプトラ向けにRM5億、インド人零細企業経営者へRM1億を拠出。
-零細貿易商、及び中国人事業家向けマイクロクレジットローンとしてRM9,000万。

インフラ
-マレーシアは引き続きインフラの改善を進める。物流パフォーマンス指数は160ヵ国中25位。
-200万人の住民に利益をもたらす新MRTプロジェクト向けにRM280億。MRTアンパンは2016年3月に営業開始予定。
-RM100億相当のLRT3プロジェクトは、2016年よりBandar Utama、Serdang、Johan Setia、Klangから建設開始。
-都市郊外のバスルート営業の改善にRM6,700万。
-NilaiからPort Dicksonを開発する『Aeropolis KLIA』発表。
-政府は高速鉄道事業でシンガポールとの交渉を継続。
-Felda集落の道路改善にRM2億。
-クアラルンプール市の渋滞解消にRM9億を割り当て。

教育
-Kedah州とPerak州へ新規学校設立計画など、教育部門向けにRM413億割り当て。
-『Dual language program』と『Highly immersive program』の促進にRM3.85億。更に学校教育での英語力強化を目指す。
-RM3,000以下の世帯に対してRM100の支援を継続。350万の生徒が享受。
-20万人の生徒向けにRM250相当の1Malayaiaブックバウチャー配布。
-MARA、高等教育における72,000名のブミプトラ学生向けにRM37億割り当て
-徴兵の改善にRM3.6億。

技術
-5Mbpsから20Mbpsへのインターネット速度改善にRM12億を割り当て。
-デジタル放送事業にRM2.5億。
-数10万人が利益を享受できるeRezeki、eUsahawanプログラム向けとして、通信・マルチメディア省がRM1億を拠出。

住宅
-175,000戸のPR1MA住宅建設(市場価格より20%安価)向けにRM16億を割り当て。
-1万戸の『Mesra Rakyat homes』建設向けにRM2億を割り当て。
-公務員向けに10万戸の住宅建設、2018年に入居可能
-『First home deposit funding scheme』向けにRM2億を割り当て。
-『Rakyat Housing Scheme』の下で、22,300戸のフラット、9,800戸のテラスハウス建設
-Felda向けに2万戸、最大価格をRM9万からRM7万へ引き下げ。
-市中心部のMRT駅周辺に、GLCによる『手頃価格の住宅』を800戸建設。
-LRT/モノレール駅近く10ヵ所に、5,000戸のRumah Prima housingとPPA1Mを建設
-公共の低コスト住宅維持、1Malaysia Maintenance Fund向けにRM1.55億。

農村部、及びコミュニティの福祉
-1万世帯を対象とした農村電化事業向けにRM8.78億。
-3,000戸を対象とした農村水道事業にRM5.68億。
-農村部道路700kmの改善にRM14億を割り当て。
-非経済的な農村部ルートの『MARA Bus Transport Project』へRM6,700万を割り当て。
-農村部の1.1万の貧困層の住宅改善にRM1.5億。
-農村部向けに国内線全線のエコノミークラスのGST免除。

オランアスリ、及びコミュニティ福祉
-オランアスリコミュニティー開発と福祉向けにRM3億を割り当て。
-オランアスリ向け住宅建設にRM6,900万。
-オランアスリ学生支援にRM4,500万。

サバ州、サラワク州
-サバ州とサラワク州のブミプトラ施設向けにRM1.15億。
-サバ州の電力供給改善向けにRM5.15億
-パンボルネオサラワク高速道が2021年に完成、総延長1,090km、コストRM161億。
-長期住宅建設向け無利子融資にRM7,000万、各戸最大RM5万融資。
-『1Harga 1Sabah』、『1Harga 1Sarawak』プログラム向けにRM2,000万。

ヘルスケア
-政府はPasir Gudang、Kemaman、Pendang、Maran、Cyberjayaに5つの病院を新規に建設。Kajang General Hospital改修。
-328の1Malaysiaクリニック向けにRM5,200万。
-公立病院でのワクチン接種、消耗品、医薬品向けにRM46億。
-1Malaysiaクリニック、新規に33ヵ所開業
-農村部の1Malaysiaクリニック向けに新たにボートや施設。

安全、防衛
-安全と国家安全保障改善向けにRM131億。
-腐敗と闘うMACCオフィーサー人員の増員。
-公共の安全改善のために警察官6,000名増員。RM3,500万相当のバイク500台、パトカー500台。
-ブラックスポットエリア60ヵ所における『Safe City Program』向けにRM2,000万。
-刑務所のセキュリティー改善向けにRM5,000万・
-戦闘用艦艇や戦車、エアバスA-400Mなどの購入を含む軍隊開発にRM173億。
-軍人向けに2,000戸の『手頃価格の住宅』を建設。
-サバ州のESSCOM向けにRM5.23億。
-海岸線警備用用巡視船の取得にRM8.64億。
-社会アメニティプロジェクト、及び洪水防止向けにRM6,000万
-災害管理向けにRM1.8億、洪水緩和プロジェクト向けにRM7.3億、洪水警戒システム向けにRM6,000万

政府援助
-RM2,000未満の独身者に対してRM400。
-世帯所得がRM3,001~RM4,000の家族はRM850。
-世帯所得がRM3,000以下の家族はRM950。
-所得RM1,000以下の全個人が、e-Kashイニシアチブの下でRM1,050受領。
-470万世帯向けにBR1Mを継続。

障害者、高齢者、貧困世帯向け福祉
-障害者、高齢者、貧困世帯向けにRM20億。障害労働者向けに毎月RM350、非雇用の障害者向けに毎月RM200、寝たきりの障害者に毎月RM300。
-障害者の子供を持つ両親は、RM6,000の税金控除請求可能。もし子供が就学している場合、更にRM14,000を請求可能。
-障害者、高齢者、貧困世帯向けにとして、女性・家族・コミュニティ開発省にRM20億割り当て。
-貧困家族の子供支援にRM6.62億、月にRM100~RM450の支援。
-貧困高齢者向けとして月にRM300の支援。

最低賃金
-西マレーシア:RM900から2016年7月1日はRM1,000に。
-東マレーシア:RM800から2016年7月1日はRM920に。

税金
-M40グループ(収入がRM3,860~RM8,320)は、18歳未満のすべの子供向けにRM2,000の税控除。
-両親が60歳を超えている場合、同居していなくとも支援している子供たちはRM1,500の税控除。
-年収RM60万から100万の人達の所得税は25%から26%へ、RM100万以上は28%へ上昇。

公務員福祉
-全ての公務員へRM500、全ての政府退職者に対してRM250支給。双方の支払いはRM10億、2016年1月1日に支払い。
-公務員昇給:160万人の公務員に対して階級に応じて昇給、総額RM11億。
-6万人の公務員の最低賃金はRM1,200。
-5万人の退職者の最低年金は月々RM950。

青年とスポーツ
-青年・スポーツ省へRM9.3億割り当て。
-アスリートトレーニング向けにRM1.45億割り当て。
-トレーニング、SEAゲーム、新規スポーツコンプレックス向けにRM2.8億。

以上が主要な内容だが、以前から継続している政策やプロジェクトへの言及が多く、私自身は面白みやイノベーションをあまり感じることができないというのが第一印象。財政赤字の削減が最優先となっていることもあるだろうが、それに伴い魅力的な政策を打ち出せていないようにも感じる。実際、国内での予算案発表に対する注目度も低下傾向にあり、それ以前に国民としては1MDBからナジブ首相に渡ったとされるRM26億の真相解明に対する関心の方が高い。

同時に、公務員の福利厚生改善や国民への補助金支援、そしてブミプトラ支援の拡大政策などは、政府与党に対する国民の支持維持を狙っているようにも思われる。とは言え、2013年の総選挙以降、GST導入や公共料金値上げ、各種補助金廃止、交通機関の値上げなどが続いていることで、国民の政府に対する不満は以前よりも増しているのではないだろうか。また、ナジブ政権の目玉政策であった『1Malaysia』だが、総選挙で多くの中国系が野党支持であることが明らかになってからは、徐々にだがブミプトラへ偏重しているようにも感じる。さらに、企業のHR向けソフトウェアを開発している企業によると、マレーシア政府は外国人に対する所得税を28%とすることを来年年初に発表するらしいと言っており、外国人にとっても厳しい環境となることが予想されている。

最後にマクロ経済見通しに目を転じると、まず2016年の経済成長率は3.1%を期待、2014年の3.4%、そして2015年の3.2%からは徐々に減速していく傾向にあることが示されている。次に経常収支に目を転じると、2014年はRM473億、2015年はRM234億の黒字であったが、2016年は2015年から更にRM113億程度下回る見込み。また、失業率は政府が180万人の雇用創出したことで、1999年の3.4%から2.9%へ改善されているとしている。

財政赤字については、対GDP比で2014年が3.4%、2015年は3.2%、そして2016年には3.1%と縮小を継続することが期待されている。とはいえ、政府債務はGDP比で2014年の52.7%から2015年は54.0%へ微増することが予測されており、政府が定める上限である55%にかなり近づいている。

[予算案ブレイクダウン(2009年~2016年)]
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いずれにしても、国民の不満が高まっている中で、ナジブ政権がどのようにして財政赤字を縮小しながらマレーシアを高所得国家へ押し上げていくのかが注目されるところだろう。


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