アジア力 - 後藤 康浩著

アジア力アジア力
(2010/10/26)
後藤 康浩

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中国、インドが中心でマレーシアの記述は少ないものの、詳細なデータや背景からの分析が行われており、アジア諸国の動向を理解する上で役立つ内容と思う。ただ、発売が昨年の10月ということもあり、いくつかの情報は既に過去のものとなっている。裏を返せば、それだけアジア諸国における変化の速度が凄まじいということだろう。

また、著者の中流層の分類も面白い。日本では、マレーシアはまだ発展途上国の意識が強いかもしれないが、自動車の個人所有やスマートフォンの普及、ブランド品に対する嗜好など、消費の部分ではかなり豊かになったと実感できる。大学生や20代のOLが普通にカフェでiPhoneやiPadを使っているし、こうした所への出費はあまり気にならなくなっているのだろう。

あと、中国の記述において、名門国有企業が国内市場を餌に外資との合弁で先進的な技術を入手することで、国内では容易に成長できたものの、研究開発を疎かにした結果、グローバル市場で競争できなかったことが指摘されている。これに対し、民間企業は政府支援を殆ど得られなかったが、技術改善やコスト改善などによってグローバル市場での競争力を発揮するに至っている。この状況はマレーシアも酷似しており、政府支援を受けてきたGLCやブミプトラ企業はマレーシア国内では市場を独占するだけの力を有しているが、グローバルプレーヤーとして活躍できている企業は少ない。せっかく先進の技術を移転しても、維持管理ができないし自らが改善することもなく、次の技術が移転されることを待っているような印象さえある。フォーブスなどで発表されるランキングにおいては、純粋な民間企業や経営者が名を連ねる結果となっている。

著者は、東西交通の要衝であるASEANは、この地政学上の優位性を効果的に活用し、競争力の強化に繋げるべきと提案している。私自身は、この地政学上の優位性以外にも、マレーシアは言語や宗教、慣習などにおいてインドネシア圏や中国圏、インド圏と密接な関係を築くことができる数少ない国家だと認識している。

最後に、本書ではアジア各国における日本企業、特に製造業のプレゼンスの低下が指摘されていた。特に、1985年のプラザ合意以降の急激な円高、そして1980年代末のバブル経済によるコスト上昇と消費嗜好の変化により、安価で必要な機能だけというコモディティ量産能力が急速に衰えたと。確かに、日本の製品は高品質で多機能だが、価格が高いことから中々発展途上国では普及が進まず、韓国メーカーや中国メーカーに市場を年々奪われている。私も以前は製造業で技術開発を行っていた人間だけに、日本メーカーの影響力が縮小している状況を悲しく感じる。ただ、日本製品に対する信頼はまだまだ高く、価格が同程度であれば他国のメーカーではなく日本メーカーの製品が選ばれる状況にある。個人的には、製品機能を集約すると共に、日本企業が得意とする省エネを前面に出せば、東南アジア市場でもかなりのアドバンテージになると期待するし、日本のモノづくりの精神が追求すべき分野だと考える。

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マレーシア、モバイルインターネットが躍進

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オーストラリアの調査会社、Effective Measureからインターネット接続に関して面白いデータが発表されていた。発表の内容は、東南アジア諸国における携帯電話でのインターネット接続が急増しているというもの。新聞記事によると、4月のマレーシアの携帯電話によるインターネットアクセスが、前月比で42.55%と大幅に増加。また、マレーシアのインターネット利用者の内、27%以上がモバイルインターネットを利用しているという。つまり、500万人以上が利用しているという計算。

あとサイト滞在時間の示されており、モバイルインターネットによる1ページ当たりの平均滞在時間は0.53分であり、これはPCユーザーより20秒長いという。またセッション当たりだと、モバイルインターネットはPCユーザーよりも42秒短い5.28分。

マレーシアも含め、東南アジア諸国でのモバイルインターネットの普及率が高いのは、各家庭への電話回線普及率がそれ程高くなかったことが影響しているのだろう。既存の固定電話回線を使用することで初期費用を抑えられるDSL回線は、固定電話普及率の高い日本や韓国といった市場では急速に普及が進んでいった。しかし、マレーシアではDSL接続のために、わざわざ新規に固定電話回線を引き込む必要があった。そうした理由もあり、最近では携帯型のUSBモデムを使ったインターネットサービスの利用が大きく躍進している。固定回線よりは低速だが、低コストで直ぐにインターネットサービスを利用できることが魅力なのだろう。同時に、昨年よりスマートフォンの需要が急速に高まり、各キャリアーともデータ通信を含めたパッケージサービスの展開も活発化している。例えばiPhoneの場合、以前はMaxisとDiGiの2社だけだったが、最近はCelcomも販売を開始し、大手3社が競争を繰り広げる形となっている。
こうして見ていくと、現時点でマレーシアのインターネット普及率の鍵はモバイルアクセスのように感じる。特に、スマートフォンベースでのインターネットユーザーは急速に成長することが期待されている。

そうした中、訪米中のナジブ首相が5月17に米国で開催されたGlobal Science and Innovation Advisory Council (GSIAC)の初会合において、2020年までに国内の全世帯にブロードバンドを普及させるとの目標を示した。
そう言えば、昨年10月末に政府からブロードバンド普及率が53%超となったことが発表され、政府計画「National Broadband Initiative」を上回る数字を記録している。そして今回の発表により、2015年に75%、2020年は100%というブロードバンド普及率のマイルストーンが明確となった。ただ、今の通信品質のままで、普及率だけに重きを置くのであれば問題だろう。現在、マレーシアでも光ファイバーなどによる高速通信サービスが登場しているが、価格が高価なこともあり、なかなか一般消費者が契約することは難しい。一部では、金持ちのためのサービスとも揶揄されている。またシンガポールメディアからも、マレーシアのブロードバンド料金は高すぎると指摘されていた。そのため、国内では低速であっても価格的に手の届くワイヤレスサービスに人気が集中する結果となっている。私としては、政府は規制を緩和することで価格の引き下げを行い、安価でありながら高品質のサービスが提供できるような環境整備を行うべきと考えるが。

マレーシア、 2011年第1四半期のGDP

5月18日、マレーシア中央銀行は2011年第1四半期のGDP成長率を発表(Economic and Financial Developments in the Malaysian Economy in the First Quarter of 2011)。ある程度予測されていた通り、前期からやや減速し、第1四半期のGDP成長率は前年同期比で4.6%であった。


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分野別に見ると、前期に最も高い成長率を示した製造業が6.2%から5.4%へ減速している。サービス業は5.9%にあり、前期の6.1%とほぼ同じ水準。農業と鉱業・鉱石は前期に続いてマイナス成長から脱することができていない。
発表資料によると、民間消費による内需が比較的堅調であったとのこと。また、輸出も一次産品と電気・電子以外は良好で、純輸出は1.7%から3.7%へ拡大している。あと、不動産も順調な様子で、KL市内はまだまだ高層ビルが建設されているし、住宅建設も止まる気配がない。ただ、FDI流入額は前期がRM 130億であったのに対し、第1四半期はRM 78億へと大幅に縮小している。


[マレーシアのGDP成長率推移]
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製造業においては、東日本大震災による供給の影響が懸念されており、中央銀行もその動向に注視していることが説明されていた。それでも、ゼティ総裁は記者会見で、2011年通年のGDP成長率は5~6%を維持できるとしている。

マレーシア政府は、2020年の先進国入りのために年間6%の経済成長維持を目標として掲げており、中央銀行もなかなか下方修正できない状況にある。
ただ、周辺諸国を見渡してみると概ね成長率が横ばい、或いはやや減速といった傾向にある。また、石油価格上昇によるインフレ圧力も懸念されている。個人的には、不透明感の方が強いように感じるが…。


[マレーシア周辺国のGDP成長率推移]
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IMD国際競争力ランキング、マレーシアは16位

5月17日、IMD(International Institute for Management Development)は、世界59カ国・地域の国際競争力を評価した「2011 World Competitiveness Yearbook」を発表した(プレスリリース「IMD announces the 2011 World Competitiveness Rankings and the results of the “Government Efficiency Gap”」)。国際競争力ランキングは、国際復興開発銀行、経済協力開発機構、国際通貨基金などの国際機関の指数、そして「政治」、「経済」、「ビジネス」、「基礎インフラ」の4分野、331項目で評価されているもの。





発表によると、今年の首位は香港と米国となり、昨年首位だったシンガポールは3位に落ち込んでいる。また、台湾が順調にランキングを伸ばし、今年は6位となっている。

昨年は10位と大きく躍進したマレーシアだが、今年は16位へとランキングを下げている。前回は新聞紙面のヘッドラインに取り上げられるなど大騒ぎだったが、今回はかなり静かな様子。とは言え、アジア域内では台湾に次ぐ4位につけており、韓国や日本を上回る評価。


[アジア主要国の国際競争力ランキング推移]
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一応、オンライン版の新聞にはムスタパ国際通商産業大臣へのインタビュー記事が出ていたが、マレーシアが人口2,000万人のカテゴリーで6位にあり、一人当たりのGDPがUS$20,000以下のカテゴリーは台湾に次ぐ2位であるといった楽観的な説明がされていた。また、マレーシアはNew Economic Modelと Government Transformation Programme を推進しており、その中で総投資金額がRM 7,945億にも達する131のEconomic Transformation Programme (ETP)によって国民総所得をRM 1.1兆に押上げ、330万人の雇用を創出されることを強調していた。

ただ、実際には何が低評価とされ、順位を落とす要因となったのかを説明して欲しかった。評価項目の中には、経済分野の他にも教育や就職に関する項目もあり、経済的な豊かさだけが重要なわけではない。
私自身、昨年の報告書の時にも記したが(「IMD、World Competitiveness Yearbook 2010を発表」参照)、公共サービスの効率の悪さや不正の横行はあまり改善が進んでいない。教育レベルの低下は年々深刻になっている。透明性は改善の印象があるが、公平性については足踏み状態となっている感じが強い。

これからの「正義」の話をしよう - マイケル・サンデル著

これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学
(2010/05/22)
マイケル・サンデル

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ハーバード大学で政治哲学を教えている著者のマイケル・サンデル教授。この教授の講義が日本でも話題になり、NHKで『ハーバード白熱教室』として放送されたとのことで、期待して本書を手に取って見た。

冒頭のハリケーン・チャーリーを巡る部分から、日本人である私には違和感が…。そこでは、災害による便乗値上げが実例として挙げられており、それは正しい行いなのかどうかが問いかけられている。確かに、海外での自然災害などを見ていると、便乗値上げや略奪、さらには暴動が平然と起こっていることもある。だからといって、この震災=便乗値上げという構図が全てに該当するほど世界が単純とは思えない。
ちょうどこの冒頭の部分を読み終わった時、日本は東日本大震災に見舞われたが、日本では同様のことが殆ど起こらなかった。そして、被災者の規律や道徳の高さが各国から注目されたことは事実であり、これが私の感じた違和感でもある。

全体を通して、アメリカ人的価値観や道徳観が強く印象に残っており、取り上げられている例題についても、かなり単純化され過ぎているように。

あと謝罪と補償の章において、戦時中の日本による従軍慰安婦の記述があるが、ステレオタイプの情報を基礎にしており、きちんとした検証作業が行われていないように感じる。検証できていない情報を基に、謝罪と補償の「正義」を導き出そうとすることは危うくないのだろうか?

とは言え、教授の講義は大学でも大変な人気を誇っており、その影響は日本へも波及しているのだから、これまでにない多くの知見がそこから得られるのだろう。時間があれば、『Justice with Michael Sandel』で公開されている講義を聞いてみたい。

Google I/O 2011、NFCセッション

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5月10日~11日、サンフランシスコにて開発者カンファレンス「Google I/O 2011」が開催された。カンファレンスでは、「Android@Home」や「Android Market for Google TV」、「Music Beta by Google」、「Android Market for Google TV」、「Chromebook」等々の発表が行われたが、改めてGoogleの幅広いビジネステリトリーを認識させられた。

そういった中で、私の注目はやはりNFC関連のもの。昨年末に、NFC機能が搭載されたNexus Sがリリースされて半年ほどが経過したが、今回のカンファレンスで技術者による説明を聞くことができた。全セッションを動画で配信してくれているのは嬉しい。セッションでは、NFCの基本的な機能説明から始まり、Nexus Sを使用した各種デモなどが行われた。NFCを知らなかった人向けの内容も盛り込まれているので、この辺は業界の人にとってはちょっと退屈かも。


そしてこのセッションの中で、次期OSとなる「Ice Cream Sandwich」が紹介された。このOSでは、NFCでの「0-Click Interaction」という機能が追加されている。これまでのOS「Android 2.3.3」だと、タグを読み取ってもどのアプリケーションを使用するのか選択しなければならなかったが、「Ice Cream Sandwich」だとタグに記録された情報から自動的にアプリケーションが立ち上がる。また、アプリケーションがインストールされていなければ、どのソフトウェアをダウンロードする必要があるのか表示される。これはpeer-to-peerでも同様に機能していた。これはかなり便利かも。

あとプレゼンターの説明では、GoogleとしてはNDEF: NFC Data Exchange Formatとpeer-to-peerの機能を強調している点が印象深い。全てのアプリケーションは、この2つの機能で対応してくださいという姿勢らしい。本来の仕様であれば、NFCは「Card emulation mode」という機能も有しているのだが、Googleとしては現時点で「Card emulation mode」をサポートしていない。とは言え、このことは業界内では知られていたことだし、私も会社でNexus Sを使ってみて「Card emulation mode」が使用できないことは理解していた。
技術者の説明によると、いくつかの技術的理由から実装に至っていないとのこと。一つには、NFCと一言にいっても異なる規格のタグが存在するので、スマートフォンがタグとして動作するときにどの規格に準拠すべきか決定できていない。そして、限られた容量の中でどのようにして「セキュア・エレメント」のストレージ管理を決定するのかということも挙げられていた。

「Card emulation mode」に関するプレゼンターの発言原文
So we talked a lot about read or writer mode and peer-to-peer. There's a third major mode of NFC, which is card emulation. This is when the Nexus S is pretending to be a passive tag that you can put in the field of a reader/writer. So if you wanted to pretend to be a transit card or pretend to be a credit card.
So in Gingerbread, we have no API support for card emulation. And it's not that we forgot. We thought very hard about it. But there's some simple reasons.
I showed you that diagram earlier of all those different technologies. Well, if you're going to do card emulation, the hardware has to pick one of those technologies to emulate. You can't typically emulate all of them at the same time. And the hardware out there today doesn't actually support all of these at the same time anyway.
So if we were to build these APIs, the applications are going to have a really inconsistent experience as they're deployed to different Android devices. Some will support NFC-A, some will support NFC-B. We don't think this is really going to be a great story for third-party developers right now.
And secondly, when you're doing card emulation, you're emulating a passive target that is going to have one kilobyte, two kilobytes of memory. You're going to then have to decide which application has the right to manage this limited resource.
So we did not put card emulation APIs in Gingerbread because we want to make sure that we have a compelling user story before we do that. And we really think that peer-to-peer is the way to go for future NFC uses. Peer-to-peer and ndef, because with ndef you can filter on content. And with peer-to-peer, it's a newer technology. It doesn't have to assume that one side is passive.

The problem is that the hardware out there today, you know, if you buy an NFC controller, it typically is only going to be able to emulate one of those RF-level technologies. So as an application developer, you don't know which ― when it's getting deployed to a phone, which one is on the phone. So I guess until we see the industry standardize around maybe one RF-level technology or until we see NFC controllers able to support multiple of those.
I guess we're actually hoping that everyone will just move to peer-to-peer or ndef exchange, because that removes this problem entirely.

Typically, the hardware is set up to do card emulation through the secure element. Right now, we don't have any APIs to talk to the secure element. And we think that we probably won't be getting APIs to do that anytime in the near future in the SDK.
There are a bunch of different reasons. Again, the secure element is a very limited resource. It can't hold a large amount of data in there. And if we open it up to any third-party application, there's going to be a huge resource contention over the secure element.
Additionally, to talk to the secure elements, even from applications on the phone, you need to authenticate yourself properly.
And if you improperly authenticate yourself a certain number of times, there are secure elements out there that will physically destroy themselves and can never be recovered. So that's something that we really think would be a bad experience for users, and we don't want developers getting blamed for, you know, breaking hardware.
It would be tough to know which application did it. We think it would be a very bad situation. So today, you know, we don't have APIs for that. And there are some constraints that make it tough to create APIs in the SDK for any third-party application to talk to the secure element.


業界においては、スマートフォンでの決済などを行うアプリケーションでは「Card emulation mode」を前提として考えていたであろうから、今回のGoogleの発表には期待外れといった声も聞こえている。私もその中の一人だが…。同セッションの質疑応答の中でも同様の質問が出されていたが、プレゼンターは「決済はpeer to peerモードで十分に対応できる」と結論付けている。





個人的には、プレゼンテーションそのものは淡白であり、インパクトは弱いように感じる。もう少し工夫があればあれば良かったのに。Android 2.3リリースから半年、NFCについてはまだまだ課題は多いように感じるが、それと同時にポテンシャルの高さも期待できるセッションであっただろう。また、RIMやWin phone 7などの競合がどのようなNFC対応を行うのかが、今後の注目だろう。

世界銀行、Malaysia Economic Monitorで頭脳流出を指摘

4月28日、世界銀行は「Malaysia Economic Monitor」を発表(プレスリリース「With strong recovery, accelerated reforms needed for skill-intensive growth, says World Bank Malaysia Economic Monitor」)した。

専用ページ「Malaysia Economic Monitor, April 2011 - Brain Drain」では、報告書全文をダウンロードすることもできる。報告書では、2010年にマレーシア経済が力強く回復したこと、そして2011年の経済成長を5.3%、2012年は5.5%との予測が示された。この他にも、直接投資額に関する分析など、経済活動に関する情報が豊富に盛り込まれているが、今回の報告書の焦点はタイトルにもある通り、「Brain Drain(頭脳流出)」であろう。

頭脳流出の多くはシンガポールで全体の57%を占めており、オーストラリア、ブルネイ、英国、米国への移住もかなりの数となっている。またシンガポールへの頭脳流出を見ると、実に中国系マレーシア人の比率は2010年で88%にも上っている。マレーシアからの移住者総数は実に100万人も上り、そのうち3分の1が頭脳流出に該当するという。

今回の報告書で興味深いのは、マレーシアから離れた理由がまとめている点。まず、66%が将来のキャリアーに対する不安を理由としており、社会的不公正60%、給与や報酬54%、就学したまま在住30%、安全性28%、政治的理由23%、就学して帰国19%、住み心地12%となっている。
第2位となった社会的不公正は、中国系とインド系から出てきた理由であろうが、やはり予想通り高い比率となっている。また、就学のために海外へ滞在することになった人の中には、社会的不公正が関係している人も含まれているだろう。


[マレーシアから離れた理由]
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さらに、本報告書ではマレーシアへの帰国の意志についての質問が行われており、「いつかマレーシアに帰るつもりである」と回答したのは149人中45人、65人は未定で、39人は帰るつもりがないとしている。

では、マレーシアへの帰国を考慮する上で何が重要なのか?これも調査報告書としてまとめられており、87%は民族による不公正是正、政府・公共部門の改善の保証82%、公的教育への大規模投資46%、国籍を問わず知識労働者の競争40%、魅力的な税制17%となっている。


[マレーシアへの帰国を考慮する上で何が重要か?]
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こうした深刻な状況に対応するため、先日、マレーシア政府は海外に流出した知識労働者を呼び戻す「Returning Expert Programme」を発表し、大幅減税などの各種優遇措置を示した(「海外のマレーシア人専門家に優遇措置」を参照)。海外に流出した知識労働者の殆どは中国系マレーシア人であることから、このプログラムは彼等を対象としたものであろう。しかし、彼等が海外に活路を見出さなければならなかった理由は、国内における保護政策の煽りを受けて就学や就労の機会を得られなかった人達である。そして、彼等が帰国を考慮する際に重視するのは不公正の是正である。今回の「Returning Expert Programme」は税制優遇措置であり、これがインセンティブとして働くのは全体の17%でしかない。

また、最近のニュースで1,050人の中国系マレーシア人学生が、STPM(日本の大学入試センター試験に相当)で好成績を獲得にしたにもかかわらず、国内の大学に進学できない状況に陥っていることが示された。理由としては、大学のブミプトラ枠が拡大されたためと説明されていた。ただ、このニュースは現地中国語紙のみで紹介されており、英語紙では何も触れられていないので、真相のほどは分からないが。それでも、高等教育における保護主義は拡大を続けている様子であり、脳流出を加速させる状況にある。これが事実であれば、「Returning Expert Programme」そのものが無意味な政策のようにも感じる。

あと、マレーシア国内に在住する外国人の知識労働者数が2004年比で4分の1にまで減少し、逆に低技術者の移住は増えていることが報告書で示された。仕事だけでなく、社会保障や税制などの面でも、マレーシアに暮らす外国人労働者に対する扱いは、あまり良いとは言えないかもしれない。多くの拠点が中国やベトナムなどへ移っていることから、仕事や生活、教育の面からも目立った魅力が提示されないのであれば、容易にマレーシア離れは進んでいくであろう。

マレーシア政府が本気で2020年に先進諸国になることを目指しているのであれば、この現実に向き合う必要があるのだろう。

報道の自由度、マレーシアは143位

5月2日、米系非政府組織のFreedom Houseは各国の報道の自由度についての調査報告書「Freedom of the Press 2011 Survey」が発表された。調査対象は196ヶ国・地域で、評価結果は「自由」と「部分的に自由」、「自由ではない」の3つのカテゴリーに分類された。





ランキングを見ていくと、1位はフィンランド、2位にはノルウェーとスウェーデンが入り、北欧諸国が上位を独占。アジア太平洋地域での首位はパラオで、世界ランキングは10位。日本は世界ランキング32位で、「自由」のカテゴリーに位置している。

そしてマレーシアに目を向けると、世界ランキングは前年から2つランキングを落とし、143位に後退。これは、アンゴラ、マダガスカルと同じ評価であり、「自由でない」という位置づけ。確かに、国内の新聞報道において、マレーシアは与党の政治的批判は殆ど掲載されない。こうした類の情報掲載により、ライセンスを停止させられた事例が以前にあったとも聞く。私自身、平気で与党批判や首相批判が行える日本とは、この点に違和感を覚える。


[アジア太平洋地域の報道の自由度ランキング2011年]
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ただ、情報通信技術の普及と発展により、状況が変わりつつあることも確かであろう。

例えば、今年4月に開催された「ASEAN BLOGGERS FORUM」において、ナジブ首相はサイバースペースでの嘘や誤った情報に警鐘を示しつつも、「インターネット検閲は行わない」ことを明言した(1ST MALAYSIA - ASEAN BLOGGERS FORUM)





また、マレーシアはSNSの利用が活発なことから、ここでの情報が国民や政府に影響を及ぼしている。最近では、政府が主導する Entry Point Projectにおいて「1Malaysia email」の推進が発表されたが、この内容を巡ってフェイスブック上で国民からの批判が噴出した。それも短時間の間に。その結果、与党は記者会見を開くなどして火消しに追われることになった。

これはほんの一例であり、首相や大臣のブログ、或いはフェイスブックを閲覧してみると、政府政策に対する説明を求めたり、批判意見を投稿したりしている人も結構見受けられる。こうした勢いは政府規制が及ばない部分であり、マレーシアのように報道おいて見えない壁が存在する国では有効な手段となっているように感じる。

ただ、マレーシアは複数の民族と宗教で構成されている国家だけに、センシティブなトピックも結構ある。そのため、SNS上の情報によって、この微妙なバランスが崩れることに懸念はあるが。



晩年の美学を求めて - 曽野 綾子

晩年の美学を求めて (朝日文庫)晩年の美学を求めて (朝日文庫)
(2009/08/07)
曽野 綾子

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私自身は晩年の年齢ではないが、タイトルに惹かれて買った一冊。著者が曽野綾子氏であることからハズレはないとは思っていたが、なかなか興味深い内容。

晩年にはまだ時間があると高を括っていたが、なるほどと考えさせられる記述が豊富。また著者らしく、アフリカ諸国との対比や宗教観も記されている。その中でも特に考えさせられるのは、日本が恵まれた環境にあるが故に生じる甘えのようなもの。世界的に見ても、日本の社会保障や医療サービスは手厚すぎるほど充実している。しかし、それでも国民からは不平不満が紛糾し、いつも社会問題として取り上げられている。マレーシアはアフリカ諸国ほど酷くないものの、社会保障や高度な医療サービスは高所得者だけが享受できるものである。そのため、晩年も悠々自適という生活を送れている人の数はかなり少ないだろう。それでも、活力やバイタリティーは日本より高いかも知れない。

本書で晩年に対して思いを巡らせ、実現できるかどうかは別としてその時にどのような生き方をしたいかを考えさせられた一冊。

温家宝首相のマレーシア訪問

4月27日~28日まで、中国の温家宝首相がマレーシアを訪問していた。KL市内には、マレーシア訪問歓迎のポスターや国旗が掲げられていた。訪馬中は、マラヤ大学を訪問、Malaysia - China Economic, Trade & Investment Cooperation Forumへ出席(MALAYSIA - CHINA ECONOMIC AND TRADE COOPERATION FORUM)、そしてマハティール元首相やバダウィ前首相とも会談を行ったことが伝えられていた。











また28日には、ナジブ首相と温家宝首相が共同記者会見を行い、8項目に及ぶ協約及び合意書が締結されたことが発表された。

1. A joint venture agreement between Smelter Asia Sdn Bhd and Aluminium Corp of China Ltd

2. A frame contract for the supply of network infrastructure and services between DiGi.com Bhd unit DiGi.com Sdn Bhd and ZTE Corp, China

3. An engineering procurement and construction contract for Duyen Hai II two times 600mw coal-fired power plant between Janakuasa Sdn Bhd and China Huadian Engineering Co Ltd

4. MoU to resolve traffic congestion on Penang island between the Penang state government and Beijing Urban Construction Group Co Ltd

5. MoU to establish a Chinese studies centre between the Beijing Foreign Studies University and Universiti Malaya

6. A MSC Malaysia human capital development programme in the ICT industry between the Multimedia Development Corp and Dream Catcher Consulting Sdn Bhd with Huawei Technologies (Malaysia) Sdn Bhd

7. An agreement to deepen and expand economic and trade cooperation between Malaysia and China

8. An agreement between both governments on the Framework Agreement to Facilitate Mutual Recognition in Academic Higher Education Qualifications

マハティール首相の時代、マレーシアは『ルックイースト政策』によって日本や韓国を手本とする政策を採ってきた。その結果、日本から多くの製造業がマレーシアへ進出し、経済活動への寄与だけでなく、人材育成などソフト面での支援も行われた。モノ作りに関して、マレーシアは域内でも特に大きくスキルを高めることができ、大規模な社会インフラもこの時期に整備されてきた。マハティール首相時代の経済発展は、日本企業からの投資がかなり寄与しており、日本の影響力は同氏の「日本なかりせば」演説にも現れている。

しかし、近年は日本の影響力が大きく低下しており、マレーシアから撤退する日系企業も目立ってきている。国別の貿易額でも、2009年の統計ではマレーシアからの輸出はシンガポール、中国、米国、日本の順位となっており、伸び率は中国がプラスでとなっている以外は2桁のマイナスを記録している。また輸入についても、中国、日本、米国、シンガポールの順位となっており、中国に対する依存度が年々高まっている。マレーシア国内の大型プロジェクトについても、中国企業の進出は著しく増加している印象がある。

マレーシアには中国系マレーシア人が多数在住しており、中国企業や政府機関との交渉において言葉や慣習の違いによる障害が比較的小さい。そして潜在的な事業機会も膨大。となると、ますます日本離れが進んでいくような印象を受ける…。

こうした経済的重要性からか、今回マレーシア側から南沙諸島問題や中国の人権問題に触れられることはなかった。多分、今後もこれらの件は政治的にはうやむやにされていくのだろう。

ビジョナリー・カンパニー3 - ジェームズ・C・コリンズ(著)

ビジョナリー・カンパニー3 衰退の五段階ビジョナリー・カンパニー3 衰退の五段階
(2010/07/22)
ジェームズ・C・コリンズ(James C. Collins)

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原題は「How The Mighty Fall: And Why Some Companies Never Give In」となっているが、日本語版はビジョナリー・カンパニー3と連続する位置づけ。

多くの経営書が企業成長に焦点を当てるのに対し、本書では企業の衰退を分析する内容となっており、興味深い視点。著者は企業の衰退を5段階に分類し、米国大手企業が衰退していった経緯、或いは復活を遂げた企業との比較をケーススタディーとして取り上げている。

ただ、ボリューム的には少し物足りない印象。後半の三分の一は付録となっており、第一段階から第五段階に置かれた当時の企業の背景や対応が説明されているのみ。

そして衰退企業に対する処方箋として、著者は「規律ある慣行を厳守」することであると言う。昨今、企業は外部コンサルタントや社外から経営者を招くことにより、企業再建を図る動きが一般化しているのに対し、著者のこの言葉は地味に映るだろう。特に、IT関連企業においては環境変化は速く、多くの企業が淘汰されている。しかし、本来の企業成長や発展は日々の積み重ねであり、それを見失わないことが肝要なのだろう。

参考までに、著者のウェブページには診断ツールなどの情報が公開されている。

あと、本書に直接関係するわけではないが、下記はDrucker Dayでの著者のKeynote。




U Mobile、RM 28で無制限サービス

4月27日、携帯電話キャリアーのU Mobileから新しいサービスが発表された(U MOBILE INTRODUCES UNLIMITED MOBILE INTERNET FOR LESS THAN RM1 PER DAY)。発表資料によると、3Gを使ったモバイルインターネットサービスで、プリペイドユーザーを対象としている。サービス名はUMI: Unlimited Mobile Internetとストレートな名前。料金は月額固定で月額RM 28。日本円だと770円程度。データ量に制限が無く、100分の音声通話と30通分のSMSが含まれている。

U MobileにはUMI専用サイトが公開されており、他社との比較表などの面白い情報も示されている。







最近のマレーシア国内のトレンドとして、業界ではデータ通信量に制限をかけたり、ポストペイドユーザーに焦点を当てたサービスが増えている。また、大手携帯電話キャリアーにおいては動画やゲームなどの付加価値サービスの拡充に重点がシフトしてきている。しかし、料金の高さから携帯電話でのインターネット利用はまだそれほど高くない。Nielsen Malaysiaの調査データ「Usage of Internet Increased to 41% with Consumers Aged 20-24 Spending an Average of 22.3 Hours Per Week Online」によると、携帯電話でのインターネットアクセスは2010年で11%しかおらず、モバイルユーザーの動向を見ても、3Gを使っているユーザーは46%でしかない。サービス品質の内容などはまだ分からないが、今回のUMIが利用率向上に寄与すればと期待する。


[Device used to access the internet]
Mobile_Insights_Survey_2010_06.png

[Usage of 3G functions, by age]
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近年、U Mobileの政治力は強くなり、サービス内容の拡充も進められている。しかし、まだ大手3社の市場を崩すには至っていない様子。と言うのも、データ通信を利用するユーザーの場合、キャリアー選択においてカバーエリアに重きを置く傾向にある。Nielsen Malaysiaの調査データによると、その数字は72%にも上っている。そのため、iPhoneの場合でもサービス料金の安価なDiGiよりもMaxisを選択するユーザーが多いように感じる(とは言え、Maxisのサービス品質低下によって顧客が離れつつあるようだが)。


[Impact on overall satisfaction with ISPs]
Mobile_Insights_Survey_2010_07.png


ただ、いずれにしても今回のサービス内容は興味深い。マレーシア国内においては、昨年から高機能スマートフォンの普及も高まっているが、UMIによってインターネット利用に対する敷居を大きく引き下げることが可能となる。特に、マレーシアは固定網よりも移動網を使ったネットワーク利用が市場を牽引する状況にあり、影響力は大きいと考える。
さらに、業界各社がUMIに対して価格や品質において活発な競争を展開できれば、マレーシアのインターネット事情は大きく改善されていくだろう。

マレーシアでもApple iPad2発売

日本と同様に、4月29日にApple MalaysiaからiPad2が発売された。Apple Malaysiaのオフィシャルサイトや新聞できちんとした告知も無かったにも関わらず、前日からApple storeへ並ぶ人もいた様子。メディアでの盛り上がりにはちょっと欠けていたものの、それでもApple製品の人気は凄い。因みに、各モデルの価格は以下の通り。
http://store.apple.com/my/browse/home/shop_ipad/family/ipad/select?mco=MjE2MjYyNzA

iPad2 WiFiモデル
- 16GB: RM 1,499
- 32GB: RM 1,799
- 64GB: RM 2,099

iPad2 WiFi+3Gモデル
- 16GB: RM 1,899
- 32GB: RM 2,199
- 64GB: RM 2,499

私用で4月にLowyat plazaへ行った時、各店舗に「iPad2入荷」のサインが出ていた。店員に尋ねると、確かWiFi 16GBモデルでRM 2,300との価格だったように。輸入物だが、この価格設定は高い…。

そして30日にKLCCのApple storeへ行ってみると、入り口に「iPad2 sold out」と貼り紙が…。それでも、店内にはiPad2目的の人で溢れていた。店員に聞いてみると、29日中に初回入荷分は全部売れてしまい、次回入荷予定は来週か再来週という。いろいろと聞いてみると、高いモデルから完売してしまい、最後の方は安いモデルを仕方なく買っていかれたという。また、30日も開店前からiPad2を求める列ができ、店員が製品完売の説明に追われたと説明していた。







iPhoneや初代iPad販売の時もそうだが、マレーシアでもApple製品に対する注目は高い。マレーシア人の所得水準から考えても、Apple製品はかなりの出費のはずだが、それでも品不足の状態に陥るぐらいに売れている。私の周りでは、インターネットを使ったことのない知人もiPhone購入を真剣に考えている。それも複数。

これまで、マレーシアのビジネスでは機能や性能、デザイン性よりも価格に重きが置かれてきた。そのため、市場にはApple製品を模した中国製品も多数流入している。しかし、最近は本物のApple製品を買い求める動きの方が大きくなっているように感じる。


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