ウルトラ・ダラー - 手嶋 龍一

ウルトラ・ダラー (新潮文庫 て 1-5)ウルトラ・ダラー (新潮文庫 て 1-5)
(2007/11)
手嶋 龍一

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本書は、精巧な偽造ドル札(ウルトラ・ダラー)を巡るインテリジェンス小説とのことだが、ストーリーの中では偽造紙幣にICタグ技術が深く関わっている。私自身、RFIDの仕事をしていることもあり、特にこの部分に惹きつけられたが、残念ながらICタグの部分はかなり非現実的な内容となっている。

私自身、紙幣にICタグを挿入するのは、ある意味究極のアプリケーションと考えている。折り曲げられたり水に濡れたり、機械的な衝撃にさらされたりと、ICタグにとって使用環境は過酷を極める。多分、これら理由から読取不可となる紙幣が大量に発生する可能性が高いだろう。またICタグ自体も、紙幣に挿入できるICチップ厚の実現、そしてタグ用アンテナの更なる技術向上が必要となる。本書では、ゲートタイプのRWアンテナにて、偽造紙幣に挿入したICタグを摘発するシーンが描かれていたが、この通信距離を実現しようとするなら、必然的にICタグのアンテナサイズは大きくなってしまい、この時点で紙幣向きではなくなってしまう。
さらに、市場に流通している紙幣が入れ替わるにはかなりの時間を要し、何も偽造紙幣がタイムリーに新しい技術を適用する必要は決してない。だが、本書では本物の紙幣へRFID技術が適用されると同時に、偽造紙幣製造においても同じ技術の適用が考慮される展開となっている。
そして、本書では日本人技術者が飛行機の中でビニール袋に収められた極小チップを主人公に見せるシーンがある。主人公は技術者がトイレに行った隙にトラップを仕掛けたチップに差し替え、このチップを使用して製造された偽造紙幣を空港で摘発するといったストーリーだが、これも現実的ではない。まず、ベアーチップをビニール袋で運ぶことはないし、これを使ってICタグを製造することも考えられない。ICチップは一応半導体部品であり、インレイの製造はウェハーレベルからクリーンルームで行われている。サンプル製造レベルであれば気にしないでもないが。次にトラップを仕掛けたチップへ差し替えるシーンだが、通信プロトコル等を考慮するとそう容易な話ではない。EPC C1 Gen2のような世界標準となっているプロトコルであれば可能性としてはあるが、これでは偽造対策にはならない。この通信プロコルは技術仕様書が一般公開されているため、以前、中国の会社でMifareチップの偽物が製造されていたように、偽造チップを製造される可能性が高い。そうなると、オリジナル通信プロトコルのICチップとなるが、この偽物を開発するのは容易な話ではない。コマンド、電気特性、アンテナ用パンプ位置/寸法/材質等々・・・。

ただ、現実の技術水準を考慮してしまうと、この「ウルトラ・ダラー」のストーリーは成り立たなくなってしまうので、仕方のないところでもある。

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米Kovio社、シリコンインクによるRFID開発を発表

10月16日、米Kovio社は「EPC Connection 2008」のプレゼンテーションにおいてシリコンインクを使用したRFIDチップを開発したと発表。同社のニュースリリース、及びRFID Journalの記事によると、同社が製品化するのはHF帯で、且つISO 14443Aに準拠しているとのこと。メモリーは読出しのみで128ビット、データ転送速度は106kbpsとなっている。印刷だけで媒体までの製造ができることもあり、印刷チップを含むタグでの価格が2から5 セントと言及されている。現状、UHF帯のRFIDチップが大量発注でおおよそ5, 6セント前後で販売されているから、媒体でこの価格はかなりインパクトがある。ただ、製品仕様が明確でなく、本当にISO 14443Aに準拠しているかは「?」である。また、ROMしか搭載されていないので当然顧客側で欲する情報を書き込めない、リライトできない、メモリーブロックへのパスワード設定ができないなどの制約が存在する。仕様が公開されていないため何とも言えないが、これ以外にもかなりの制約が存在すると予想される。
将来的には、EPC環境上で動作できるUHF帯の印刷チップも視野に入れているようであるが、上記制約はクライアントにとってかなり使いづらいものになると想像される。

印刷技術によるRFIDはこれまでも数多くリリースされてきたが、コストが安価でも機能面での制約が多いことから、ニッチマーケットでの普及しか見られていない。私自身、Kovio社とは別のマサチューセッツ工科大学の技術ベンチャー企業と仕事をしており、ここも印刷技術によるチップレスRFIDの開発を数年前から行っている。が、市場への普及はまだ小規模であり、従来のシリコンチップを使用したRFID製品が中心事業となっているようである。

実践RFID活用戦略 - 三宅 信一郎

実践RFID活用戦略―日米欧亜の導入先進事例27実践RFID活用戦略―日米欧亜の導入先進事例27
(2008/06)
三宅 信一郎

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これまで多くのRFID関連書籍を読んできたが、本書は基礎技術だけでなく、実際の導入実績における効果を数値で明示されているなど、実務に関わっている者からしてもかなり参考になる。日本での事例には偏りが見られるものの、ネット上では決して得られない情報が多数紹介されている。内容としては、SCMと製造業におけるパッシブタイプのUHF技術を活用した事例が主体となっている。

私自身、多くのクライアントがRFID導入による経済効果を数値で示すよう求めてくる場面に出くわすが、本書の情報は一般論として紹介する上で、利用する側にとっても有意義な情報である。ちょっと初心者向けとは言い難いが、RFID導入を真剣に考えているのであれば、読んでいて損はないかなと。各導入実績におけるインレイのアンテナ形状や材質、タグ貼付け方法、RW及びアンテナ設定等々の技術ノウハウはさすがに紹介されていないことから、やはり利用者側の視点に立った内容と言える。

私自身は、アクティブタグ技術等々の導入事例がもう少しあれば嬉しいところか。

『2008 年度版世界大学ランキング』

英「ザ・タイムズ」紙は、「2008 年度版世界大学ランキング」を発表、マレーシアからはマラヤ大学(UM)が230 位、マレーシア国民大学(UKM)が250位、マレーシア科学大学(USM)313位、マレーシア・プトラ大学(UPM)320 位、マラ工科大学(UiTM)356位と上位400位に5大学が名を連ねた。

私自身、この中のいくつかの大学とはRFID基礎技術開発や、応用技術開発を共同で行っている。学生の研修受け入れも行ったこともあるが、ソフトウェア開発の分野ではインド系学生のスキルの高さを実感。ただ、往々にしてマレーシア一般と同様に時間を守れない、就業に集中できない等々の問題も同時に目の当たりにしたが・・・。

マレーシアそのものには、優秀な人材は多く存在する。ただ、大学進学においてはマレーシア国内のブミプトラ政策の影響から、中国系やインド系の学生の多くは欧米やオーストラリア、近隣諸国の大学へ進学するケースが目立つ。私自身、一緒に仕事をしている会社の中国系やインド系社員・経営者の多くは海外の大学を卒業している。また同時に、海外の大学を卒業してそのまま海外で就労するケースも良く見られる。いわゆる頭脳流出である。

マレーシア国内で成長著しい会社も、大抵は海外からの帰国組であり、マレーシアの大学を卒業していない。Maxisの創設者Ananda Krishnan氏はメルボルン大学とハーバード大学卒業、AirAsiaのTony Fernandes氏はロンドン、Public BankのTeh Hong Piow氏はシンガポールといったように。経済活動の基盤となる教育改革(民族に左右されない公平性)ができれば、マレーシアは今よりより豊かになるのだろうが、政府はブミプトラ政策を撤廃できないというジレンマを抱えている。

3000人のユダヤ人にYESと言わせた技術 – マーク富岡

3000人のユダヤ人にYESと言わせた技術3000人のユダヤ人にYESと言わせた技術
(2008/06/17)
マーク富岡

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読み出しはHow to本かと思わせる内容だったが、読み進めていくと様々な国で著者が交渉した経験が書かれており、ストーリー的には結構面白い。

私自身、マレーシアで働いていることもあり、様々な国の人たちと仕事をする機会がある。マレーシア人と日本人は当然だが、アメリカ人、カナダ人、イギリス人、フランス人、スイス人、オーストリア人、オーストラリア人、中国人、韓国人、香港人、シンガポール人、タイ人、インドネシア人、インド人、アラブ人等々(あまりビジネスの相手をどこの国の人という感覚で見ていないので、厳密には思い出せない・・・)。ただ、私自身ネゴシエーションというほどの事を行っていないこともあるが、交渉やメールの遣り取りにおいてあまり国による違いを感じたことはない。逆に、同じ国の人でありながら個々人の特徴が違うことの方が多い。唯一、日本人の時間厳守や取決内容の明確化と履行能力の高さが、他国と異質であることはよく感じるが。

世界競争力ランク、マレーシアは21位

10月8日、世界経済フォーラム「2008-2009世界競争力報告書」を発表した。マレーシアは134カ国・地域における総合ランキングで21位、昨年と同じ順位を維持した。東アジア主要国の競争力ランクは、下記の表とグラフを参照。

〔東アジア主要国の競争力ランキング〕
WEF2008.gif

WEF2008_Graph.gif

個別項目で見てみると、金融市場の高度化(16 位)と労働市場の効率性(19位)において高い評価を受けている(ただ、実際にマレーシアで働いていると、この部分での競争力の高さはあまり感じられない)。逆に低い評価となったのが、マクロ経済の安定性(38位)と政府の財政状況(109位)となっていた。


〔マレーシアの個別ランキング〕
WEF2008_Individual.gif

政府の財政状況については、実際に政府と仕事をしていて特に最近は実感がある。ただ、多くの大型プロジェクトは政府案件に直結しており、この部分の脆弱性はマレーシア経済に大きく影響を与えるだろう。私見としては、今後マレーシア企業がいかにして政府案件に依存せず、企業競争力を高めていくかが鍵になると思われる。

自衛隊の国際貢献は憲法九条で – 伊勢崎賢治

自衛隊の国際貢献は憲法九条で―国連平和維持軍を統括した男の結論自衛隊の国際貢献は憲法九条で―国連平和維持軍を統括した男の結論
(2008/03)
伊勢崎 賢治

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前回読んだ伊勢崎氏の「武装解除」では、東ティモールやシエラレオネ、そしてアフガニスタンで武装解除が横断的に書かれていたが、今回はアフガニスタンに焦点を絞った内容となっている。その中でも、「美しい誤解」によって日本という国でなければできない国際貢献の在り方については、興味を引く内容であった。また、『NATOの国会議員の会議において、安倍首相が辞任するまで、海上自衛隊が給油していることを知らない人が多く、「なぜこんな程度の作戦に参加するかしないかが、一国の首相の辞任理由になるのか、さっぱりわからない」』という部分はいまの日本の国際感覚を示している言える。憲法九条同様、日本国内で騒がれているほど、海外においてその認知は低く、重要視されているものではなく、逆にアブノーマルな印象を与えている思われる。

新規事業がうまくいかない理由 – 坂本桂一

新規事業がうまくいかない理由新規事業がうまくいかない理由
(2008/08/29)
坂本 桂一

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タイトルから社内におけるプロジェクトベースの事業立ち上げについて述べているものと想像していたが、中味を見ると主にスピンオフ企業が対象とされている。

私自身、会社でのプロジェクトはPMBOKをベースとして進めているが、意思決定や前提条件の設定など、本書の内容とかなりオーバーラップする部分がある。全体を通し、内容そのものがかなり簡潔に書かれており、理解しやすいと思う。ただ、頁数が少なく、もう少しボリュームが欲しいかなと。

新・挑戦する独創企業 – 浜銀総合研究所 総合コンサルティング部

新・挑戦する独創企業―なぜ、この会社はこだわり続けるのか!新・挑戦する独創企業―なぜ、この会社はこだわり続けるのか!
(2008/08)
浜銀総合研究所経営コンサルティング部

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近年、IT企業の著しい成長と動向に注目が集まっているが、これまで日本を支えてきたのは中小企業の技術力であり、その有効性は今も継続している。国内では名も知られていない企業が、世界最高水準の技術を誇り、コスト競争とは違うセグメントで高い競争力を維持している。

本書では19社の事例が紹介されているが、いずれも独創的であり、企業努力の高さを感じることができる。経営が危機的状態に陥った企業も紹介されており、そこからいかにして再建を成し遂げたかの経緯は面白い。私自身、以前はローテクの製造業に勤めていたこともあり、良いものを作りたい、良いものを提供したいという企業のプライドを再認識させられた。いま、私はマレーシアで働いているが、同国が決定的に不足しているのはこのようなプライドだと思う。このような思いが芽生えない限り、マレーシアの技術水準はいつまで経っても進歩が見られないだろう。

偽善エコロジー – 武田邦彦

偽善エコロジー―「環境生活」が地球を破壊する (幻冬舎新書 (た-5-1))偽善エコロジー―「環境生活」が地球を破壊する (幻冬舎新書 (た-5-1))
(2008/05)
武田 邦彦

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本書、これまでメディアで伝えられている環境問題に対して異論を唱える内容となっている。これまでニュース、新聞等で伝えられている環境に良いことが逆に環境問題改善に寄与していない事実等々が簡潔にまとめられている。それが事実かどうかの判断はできないが、本書の内容が薄く、もう少し背景やデータが詳細に示されていればと思う。ただ、著者の技術力向上によって環境改善進めることの有効性には同意見である。

After Dark – Haruki Murakami

After DarkAfter Dark
(2008/06/05)
Haruki Murakami

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たまたまKuala Lumpur Convention Centreで開催されていたブックフェアーに出かけた際、注目の著者として村上春樹氏の書籍が山積みにされていたのを目にした。その際、たまたま手にした一冊が、この「After Dark」。同氏の著書は読んだことがなかったが、(英語訳が良いのか)英文でも十分に面白みは理解できる。なるほど、読んでみて海外でも評価が高いことに納得できる。文体にも面白みがあり、次回は日本語でも読んでみたいと思う。

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