マレーシアの外国人労働者事情

2016年2月と3月は、マレーシアの外国人労働者に関して大きな動きがあり、それをプレゼンテーション形式でまとめてみました。特に、連邦政府の決定は二転三転し、労働者市場が混乱する事態になっています。最終決定が発表された後も会社経営陣から不満が出ており、更なる見直しが行われることも予想されます。



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マレーシア政府 、バングラデシュからの労働者受け入れを凍結

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2月8日、マレーシア政府は今後3年間で150万人の外国人労働者をバングラデシュから受け入れる計画であると発表。そして18日、両国政府はMoUを締結。これが実現すると、外国人労働者の総人口が800万人(不法労働者含む)に達し、中国系マレーシア人の人口を上回ることになる。総人口3,100万人の国家にあって、外国人労働者が800万人という数字はかなり多い。ただ、国内の反発が予想以上に高かったためか、その後、政府は全ての外国人労働者の受け入れを凍結すると発表している。







マレーシアの労働市場を見ると、工場や建設現場、プランテーション、メイド、清掃といった仕事で外国人労働者が多く登用されている。国内の市庁舎においても、街や道路の清掃には外国人労働者を採用しているところが多い。私が住むAmpang地区においても、清掃業務を担っているのは外国人労働者で、ごみを散らかすのがマレーシア人となっている。2014年の政府の発表では、正規の外国人労働者が約200万人、不法の外国人労働者が約450万人、合わせると650万人にも達し、ある意味マレーシア経済の根底を支えている存在になっている。また、マレーシア人労働者もこうした仕事を3D労働(Dirty、Dangerous、Difficultの意味で、日本の3Kに該当)として敬遠している傾向にあり、特に若い世代になればなるほど、こうした3K労働の仕事が敬遠されている。

[業種別外国人労働者数(2013年9月末)]
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[国籍別外国人労働者数(2013年9月末)]
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日本では、こうした3K労働も国内の日本人が担っていることから、質の高いサービスを提供でき、各々がプロフェッショナルとしての専門性を持ち、どのような分野でもイノベーションを起こすことができている。私自身、日本では工場勤務で技術開発を行っていたが、毎日作業着でメッキ作業や機械調整、カーボン粉末が舞う中での組み立て作業を行ってきた。しかし、そこで働く社員は日々の業務改善などを通じて、作業効率や品質、安全性を向上させていた。どんな単純作業でもそうしたことは可能であり、国の技術力の発展や労働生産性の向上に寄与していると思うし、それが日本の強みにもなっているだろう。

また、私の周りのマレーシア人の友人に話を聞くと、職選びのポイントは何をするかではなく、給与はいくらかといったことに重点を置いている人が比較的多いように感じられる。だから、他にもっと良い給与の仕事を見つけるとすぐに転職してしまう傾向にあるし、転職は給与アップの機会にもなっている。その結果、マレーシア国内は転職が多い状況に陥ってしまうのだろう。ただ、給与が高くとも工場勤務は嫌だという声も多く、3D関連の仕事は選択肢としてはかなり下位になっている。

マレーシアは2020年までに高所得国家となる事を目指しており、そのためにETPやGTPと呼ばれる政策を導入、知識労働へ重きを置こうとしている。最近では、最低賃金制度の導入、外国人労働者の登録徹底といった政策が出された事から、一般にはマレーシア政府は国内の雇用機会のほとんどをマレーシア人に割り当てようとしているように思われていた。しかし、今回のバングラデシュ人労働者150万人受け入れの発表により、その方向性があやふやになってきている。

一般的に外国人労働者を雇用するのは、国内労働者を知識労働のようなより高レベルの仕事に集中させることで労働生産性を高めること目的としており、マレーシア政府の狙いもそこにある。しかし、雇用する側のマレーシア人の狙いは、ただやりたくない仕事を外国人労働者に託す、或いは就労したがるマレーシア人労働者がいない、コスト競争力維持のために低賃金の外国人労働者を雇用しているなどの理由となっている。実際、私自身もエビ養殖業を営んでいるが、2つめの理由から労働者は全て外国人労働者に依存している。そのため、外国人労働者がいないとエビ養殖実務に携わる労働者を見つけることはほぼ不可能となる。同じような環境下にある産業は多数あり、外国人労働者がいなくなるとマレーシア経済は立ち行かなくなるだろう。マクロ的に見ても、マレーシアの失業率は長期にわたって3%前後で推移していることからほぼ完全雇用の状況にあり、3D労働では外国人労働者を受け入れなければならないほど労働者不足が深刻なのかもしれない。

[マレーシアの失業率推移]
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それでも、マレーシア労働組合会議の事務局長は3D労働に対して適切な賃金を払えば、若者を呼び込むことができるとしている。実際、30万人ものマレーシア人がシンガポールで3Dの職に就いているらしい。ただ、私が若い層に話を聞くと、彼らのマインドは3D労働に向いていないようにも感じる。たぶん、小さい時から3Dの仕事は外国人労働者のやることであり、自分たちは彼らよりも上の存在であると意識しているようにも思える。



とはいえ、今のマレーシアの外国人労働者への依存は労働生産性の停滞、犯罪の増加などを助長しているだろう。さらに、違法労働者は警察官や役人の汚職・賄賂の温床となっている話も聞くし、人身売買も大きな問題として国際的にクローズアップされている。外国人労働者によって国内の労働者不足を補い、自国民は質の高い仕事に就くことが理想だが、バランスを取ることはなかなか難しいだろう。

あと最近のマレーシア政府の発表見ていて気づくのが、今回のバングラデシュ労働者受け入れや外国人労働者の人頭税引き上げなどのように、突如政策を発表して結果として業界団体や国民の反発から凍結や中止に至る事態が目立つ。よく言えば、柔軟性に富んでいると表現できるのだろうが、こうも続くと本当に国会で真剣に政策が審議されているのかと疑問を感じざるを得ない。

マレーシア、2016年予算案見直しへ

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2016年早々、ナジブ首相兼財務相から2016年度予算案の修正を行うと発表が行われた。記者会見において、石油価格の下落、リンギ安、中国経済減速が見直しの主因となっている。



昨年の予算案発表時、原油価格は1バーレル45ドルであったが、いまは30ドルにまで落ち込んでいる。国民は石油価格下落によってガソリン価格も安くなったことから、普段はRON95しか給油しない人達がRON97を利用するなど、歓迎ムードといった印象。しかし、石油価格の下落はペトロナスからの配当金や税金、ロイヤルティといった納付金が落ち込むことを意味している。5年程前だと、ペトロナスからの収益がマレーシア歳入の約40%程度を占めていたが、2014年には約30%にまで落ち込んでおり、今後はさらに依存度が低下していくことになるだろう。またクレディ・スイスの見通しでは、ペトロナスからの配当収入は今年がRM160億、来年はRM100億となり、GDP比で0.5%に相当する減少となる。

また、急速なリンギ安はマレーシア経済に大きな影響を及ぼしており、国民車メーカーを含む自動車メーカー各社は車体価格の値上げに踏み切っている。中国経済の減速に関しても、マレーシアの貿易において中国は最大のパートナーとなっているだけに、不安が広がっている。リンギ安で輸入原材料が上昇し、最大の輸出先である中国経済が減速という構図は、マレーシア産業界にとって痛手だろう。更に1-9月の投資認可額を見ても、2014年のRM1,800億から昨年はRM1,532億に減少、特に不動産セクターはRM529億からRM210億にまで落ち込んでいる。こうした状況から、世界銀行はマレーシアの2016年の経済成長が4.5%に減速すると予想している。



今回の予算案見直しでは、高速道路補助金削減、液化石油ガス料金補助削減、そして公的機関への交付金削減が予想されており、補正予算案の上程は1月28日に予定されている。ただ、こうした補助金削減策は、GST導入や各種値上げで冷え込んでいる消費者心理に追い討ちをかける可能性が高いだろう。また、財政健全化を目的として導入されたGSTについては、財政に与えた影響が限定的であったとし、格付け会社のMoody's はマレーシア国債のアウトルックを「ポジティブ」から、「安定的」へと引き下げている(『Moody's revises Malaysia's sovereign rating outlook to stable, affirms A3 rating』)。(連邦政府は引き下げではないと強調)



マレーシアの政府債務残高は2014年時点で54.8%とされており、これは法定上限の55%に限りなく近いことから、ナジブ政権では財政健全化を最優先事項としている。そのため、新聞などを読むと歳出削減に重点が置かれるといった見方が多い。外部環境の悪化に加えて、民間消費の鈍化、こうした中でどのような補正予算が組まれのか注目したい。

ナジブ首相、2016年度予算案を発表

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10月23日、ナジブ首相は下院議会において2016年度の予算案を発表(ナジブ首相スピーチ全文)。全体的に見ると、財政赤字の削減に重きが置かれている印象が強く、個人的には目を引く内容に乏しいように感じる。メディア各社の報道を見ても、2016年度予算の目玉が低所得者向補助金『1Malaysia People's Aid (BR1M)』の増額と指摘されており、年々注目すべき事項が少なくなっているようにも。






[低所得者向補助金の推移(RM)]
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(*はBarisan Nasionalが2013年のマニュフェストで示した数字)

発表によると、2016年度の予算規模はRM2,672億となっており、2015年度からはRM65億の微増に。一般歳出はRM19億増のRM2,152億、開発支出がRM46億増のRM520億。また歳入はRM32億増のRM 2,257億の見込み。GST導入による政府収入はRM390億(2015年の目標額はRM270億)を見込んでおり、ナジブ首相は石油価格下落によるペトロナスからの歳入減などの外部環境の厳しさを説明、その上でGST導入は正しい選択であったと強調している。

以下に、今回の予算案発表で気になった項目を列挙している。

まず、2016年度予算の柱として、国民繁栄のために以下の5項目がプライオリティに据えられている。

1.経済回復力を強化
2.生産性、イノベーション、グリーン技術向上
3.人的資本のエンパワーメント
4.ブミプトラアジェンダを推進
5.国民の生活費緩和

次に、カテゴリー別に主要項目における予算割り当て内容を分類。

国内、民間部門の開発
-RM67億の価値がある9つの高インパクト国内プロジェクト
-化学産業、電気・電子機械、航空、医療機器、サービスの開発向けにRM7.3億。
- Aims for 30% women involvement in decision-making levels in public and private sector.
公共部門と民間部門において、意思決定レベルにおける女性の参加で30%を目指す。

経済
-観光でRM1,030億の寄与を期待(米国、中国、インドなど7ヶ国へe-VISA発給)。そのために、観光文化省へRM12億割り当て。
-農業の近代化のために、農業・農業関連産業省へRM53億割り当て。
-マレーシアは13ヶ国と自由貿易協定に署名しており、政府はTPPAを原則受け入れる。

中小企業と起業家精神
-2020年までにマレーシアの中小企業の寄与を41%に引き上げ。
-起業家を支援する中小企業銀行にRM5,000万を提供。
-変革プログラムTUKARとATOMへRM1,800万を割り当て。
-TEKUN、ブミプトラ向けにRM5億、インド人零細企業経営者へRM1億を拠出。
-零細貿易商、及び中国人事業家向けマイクロクレジットローンとしてRM9,000万。

インフラ
-マレーシアは引き続きインフラの改善を進める。物流パフォーマンス指数は160ヵ国中25位。
-200万人の住民に利益をもたらす新MRTプロジェクト向けにRM280億。MRTアンパンは2016年3月に営業開始予定。
-RM100億相当のLRT3プロジェクトは、2016年よりBandar Utama、Serdang、Johan Setia、Klangから建設開始。
-都市郊外のバスルート営業の改善にRM6,700万。
-NilaiからPort Dicksonを開発する『Aeropolis KLIA』発表。
-政府は高速鉄道事業でシンガポールとの交渉を継続。
-Felda集落の道路改善にRM2億。
-クアラルンプール市の渋滞解消にRM9億を割り当て。

教育
-Kedah州とPerak州へ新規学校設立計画など、教育部門向けにRM413億割り当て。
-『Dual language program』と『Highly immersive program』の促進にRM3.85億。更に学校教育での英語力強化を目指す。
-RM3,000以下の世帯に対してRM100の支援を継続。350万の生徒が享受。
-20万人の生徒向けにRM250相当の1Malayaiaブックバウチャー配布。
-MARA、高等教育における72,000名のブミプトラ学生向けにRM37億割り当て
-徴兵の改善にRM3.6億。

技術
-5Mbpsから20Mbpsへのインターネット速度改善にRM12億を割り当て。
-デジタル放送事業にRM2.5億。
-数10万人が利益を享受できるeRezeki、eUsahawanプログラム向けとして、通信・マルチメディア省がRM1億を拠出。

住宅
-175,000戸のPR1MA住宅建設(市場価格より20%安価)向けにRM16億を割り当て。
-1万戸の『Mesra Rakyat homes』建設向けにRM2億を割り当て。
-公務員向けに10万戸の住宅建設、2018年に入居可能
-『First home deposit funding scheme』向けにRM2億を割り当て。
-『Rakyat Housing Scheme』の下で、22,300戸のフラット、9,800戸のテラスハウス建設
-Felda向けに2万戸、最大価格をRM9万からRM7万へ引き下げ。
-市中心部のMRT駅周辺に、GLCによる『手頃価格の住宅』を800戸建設。
-LRT/モノレール駅近く10ヵ所に、5,000戸のRumah Prima housingとPPA1Mを建設
-公共の低コスト住宅維持、1Malaysia Maintenance Fund向けにRM1.55億。

農村部、及びコミュニティの福祉
-1万世帯を対象とした農村電化事業向けにRM8.78億。
-3,000戸を対象とした農村水道事業にRM5.68億。
-農村部道路700kmの改善にRM14億を割り当て。
-非経済的な農村部ルートの『MARA Bus Transport Project』へRM6,700万を割り当て。
-農村部の1.1万の貧困層の住宅改善にRM1.5億。
-農村部向けに国内線全線のエコノミークラスのGST免除。

オランアスリ、及びコミュニティ福祉
-オランアスリコミュニティー開発と福祉向けにRM3億を割り当て。
-オランアスリ向け住宅建設にRM6,900万。
-オランアスリ学生支援にRM4,500万。

サバ州、サラワク州
-サバ州とサラワク州のブミプトラ施設向けにRM1.15億。
-サバ州の電力供給改善向けにRM5.15億
-パンボルネオサラワク高速道が2021年に完成、総延長1,090km、コストRM161億。
-長期住宅建設向け無利子融資にRM7,000万、各戸最大RM5万融資。
-『1Harga 1Sabah』、『1Harga 1Sarawak』プログラム向けにRM2,000万。

ヘルスケア
-政府はPasir Gudang、Kemaman、Pendang、Maran、Cyberjayaに5つの病院を新規に建設。Kajang General Hospital改修。
-328の1Malaysiaクリニック向けにRM5,200万。
-公立病院でのワクチン接種、消耗品、医薬品向けにRM46億。
-1Malaysiaクリニック、新規に33ヵ所開業
-農村部の1Malaysiaクリニック向けに新たにボートや施設。

安全、防衛
-安全と国家安全保障改善向けにRM131億。
-腐敗と闘うMACCオフィーサー人員の増員。
-公共の安全改善のために警察官6,000名増員。RM3,500万相当のバイク500台、パトカー500台。
-ブラックスポットエリア60ヵ所における『Safe City Program』向けにRM2,000万。
-刑務所のセキュリティー改善向けにRM5,000万・
-戦闘用艦艇や戦車、エアバスA-400Mなどの購入を含む軍隊開発にRM173億。
-軍人向けに2,000戸の『手頃価格の住宅』を建設。
-サバ州のESSCOM向けにRM5.23億。
-海岸線警備用用巡視船の取得にRM8.64億。
-社会アメニティプロジェクト、及び洪水防止向けにRM6,000万
-災害管理向けにRM1.8億、洪水緩和プロジェクト向けにRM7.3億、洪水警戒システム向けにRM6,000万

政府援助
-RM2,000未満の独身者に対してRM400。
-世帯所得がRM3,001~RM4,000の家族はRM850。
-世帯所得がRM3,000以下の家族はRM950。
-所得RM1,000以下の全個人が、e-Kashイニシアチブの下でRM1,050受領。
-470万世帯向けにBR1Mを継続。

障害者、高齢者、貧困世帯向け福祉
-障害者、高齢者、貧困世帯向けにRM20億。障害労働者向けに毎月RM350、非雇用の障害者向けに毎月RM200、寝たきりの障害者に毎月RM300。
-障害者の子供を持つ両親は、RM6,000の税金控除請求可能。もし子供が就学している場合、更にRM14,000を請求可能。
-障害者、高齢者、貧困世帯向けにとして、女性・家族・コミュニティ開発省にRM20億割り当て。
-貧困家族の子供支援にRM6.62億、月にRM100~RM450の支援。
-貧困高齢者向けとして月にRM300の支援。

最低賃金
-西マレーシア:RM900から2016年7月1日はRM1,000に。
-東マレーシア:RM800から2016年7月1日はRM920に。

税金
-M40グループ(収入がRM3,860~RM8,320)は、18歳未満のすべの子供向けにRM2,000の税控除。
-両親が60歳を超えている場合、同居していなくとも支援している子供たちはRM1,500の税控除。
-年収RM60万から100万の人達の所得税は25%から26%へ、RM100万以上は28%へ上昇。

公務員福祉
-全ての公務員へRM500、全ての政府退職者に対してRM250支給。双方の支払いはRM10億、2016年1月1日に支払い。
-公務員昇給:160万人の公務員に対して階級に応じて昇給、総額RM11億。
-6万人の公務員の最低賃金はRM1,200。
-5万人の退職者の最低年金は月々RM950。

青年とスポーツ
-青年・スポーツ省へRM9.3億割り当て。
-アスリートトレーニング向けにRM1.45億割り当て。
-トレーニング、SEAゲーム、新規スポーツコンプレックス向けにRM2.8億。

以上が主要な内容だが、以前から継続している政策やプロジェクトへの言及が多く、私自身は面白みやイノベーションをあまり感じることができないというのが第一印象。財政赤字の削減が最優先となっていることもあるだろうが、それに伴い魅力的な政策を打ち出せていないようにも感じる。実際、国内での予算案発表に対する注目度も低下傾向にあり、それ以前に国民としては1MDBからナジブ首相に渡ったとされるRM26億の真相解明に対する関心の方が高い。

同時に、公務員の福利厚生改善や国民への補助金支援、そしてブミプトラ支援の拡大政策などは、政府与党に対する国民の支持維持を狙っているようにも思われる。とは言え、2013年の総選挙以降、GST導入や公共料金値上げ、各種補助金廃止、交通機関の値上げなどが続いていることで、国民の政府に対する不満は以前よりも増しているのではないだろうか。また、ナジブ政権の目玉政策であった『1Malaysia』だが、総選挙で多くの中国系が野党支持であることが明らかになってからは、徐々にだがブミプトラへ偏重しているようにも感じる。さらに、企業のHR向けソフトウェアを開発している企業によると、マレーシア政府は外国人に対する所得税を28%とすることを来年年初に発表するらしいと言っており、外国人にとっても厳しい環境となることが予想されている。

最後にマクロ経済見通しに目を転じると、まず2016年の経済成長率は3.1%を期待、2014年の3.4%、そして2015年の3.2%からは徐々に減速していく傾向にあることが示されている。次に経常収支に目を転じると、2014年はRM473億、2015年はRM234億の黒字であったが、2016年は2015年から更にRM113億程度下回る見込み。また、失業率は政府が180万人の雇用創出したことで、1999年の3.4%から2.9%へ改善されているとしている。

財政赤字については、対GDP比で2014年が3.4%、2015年は3.2%、そして2016年には3.1%と縮小を継続することが期待されている。とはいえ、政府債務はGDP比で2014年の52.7%から2015年は54.0%へ微増することが予測されており、政府が定める上限である55%にかなり近づいている。

[予算案ブレイクダウン(2009年~2016年)]
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いずれにしても、国民の不満が高まっている中で、ナジブ政権がどのようにして財政赤字を縮小しながらマレーシアを高所得国家へ押し上げていくのかが注目されるところだろう。

ナジブ首相、第11次マレーシア計画を発表

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5月21日、ナジブ首相から第11次マレーシア計画(2016年~2020年)の概要が発表された。概要の発表と言いながらも、総ページ370ページにも及ぶ報告書だけに、興味深い情報が数多く掲載されている。
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マレーシアの経済開発政策は、1966年から5ヵ年計画を基本として進められており、今回で第11次を迎えるに至っている。また、2020年に高所得国家入りという目標を挙げていることから、第11次マレーシア計画がその成否に大きく影響するだろう。規模そのものも、前回の10MPのRM2,300億から11MPではRM2,500億に拡大する見通し。

概要が示された報告書では、まず第10次マレーシア計画の実績が示されている。主な実績は以下の内容。

【第10次マレーシア計画実績】
マクロ経済
実質GDP成長率:5.3%
一人当たりの年間所得:RM36,937
月の平均世帯所得:RM6,141
民間消費成長率:7.1%
民間投資額:RM1,620億
国際収支の経常収支:2.0%
財政赤字:3.2%
多要素生産性:29.8%
インフレ率:2.5%
失業率:2.9%

個別事業
地方の舗装道路カバー率:2009年の45,905kmから2014年に51,262km
地方の電気カバー率:2009年の93%から2014年に98%
地方の水道供給:2009年の81%から2014年に94%
就学前入学:2010年の72.4%から2014年に90.7%
学力の低い学校:2010年の380校から2014年に55校
家庭でのリサイクル率:2010年の5%から2015年に15%
森林被覆:2010年の56.6%から2014年に61%
2010年から2015年の道路総延長は68%伸長、新規に93,100km
2010年から2014年のKLIA利用者数46%増加
2010年から2014年の都市部での鉄道利用率32%上昇
2014年の世帯別ブロードバンド普及率:70%
2014年の清潔な処理水提供:95%
追加発電容量:5,458MW
13,483の行政サービスのオンライン化:77%
2014年における政府ウェブ、及びポータルサイトで3つ星以上:98%
建設許可手続き低減:37→15
連邦レベルでの事業ライセンス数低減:717→448
地方レベルでの事業ライセンス数低減:1,455→449

興味深い点としては、道路インフラの拡大を続ける中、鉄道利用率が32%上昇している点。2010年の利用者数は1.71億人だったが、2014年には2.26億人へ拡大している。マレーシアの首都圏も通勤時は慢性的な渋滞に悩まされているが、連邦政府としてはいかにして公共交通機関の利用を高めるかを重要視している。現在はパークアンドライドの利用促進などを進めているが、やはり公共交通網が十分に発達していないことが問題となっている。11MPにおいては、MRT及びLRT延伸が完了し、より利便性が高まることから、鉄道利用率は大きく高まることが予想されている。

[マレーシアの鉄道利用]
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次に、第11次マレーシア計画では、以下の6つの戦略が中核に据えられている。

【第11次マレーシア計画戦略】
-公平な社会に向けて包括性を高める
-全国民の福祉改善
-先進国に向けた人的資源開発を加速
-持続可能性と回復力向けグリーン成長の追及
-景気拡大をサポートするインフラ拡大
-一層の繁栄に向けたリエンジニアリング経済成長

ここでは、グリーン成長を中核戦略の一つとして捉えているのが特徴的と思われる。報告書内では、2014年の再生可能エネルギー発電容量が243MWであったが、2020年には2,080MWへと大きく拡大することを目指している。この他にも、自動車産業や消費財、リサイクルなどの分野においても拡大が見込め、日本企業がアドバンテージを発揮できると思われる。特に、グリーン技術の普及に度合いにおいて、マレーシアはまだまだ発展途上であり、新規参入の余地はかなりある。

[2014年のマレーシアの再生可能エネルギー]
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[2020年のマレーシアの再生可能エネルギー]
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こうした基本戦略の下、連邦政府が目指す主要な目標値は以下の通りとなっている。

【第11次マレーシア計画の主要目標値】
年間実質GDP成長率:5~6%
労働生産性:2015年のRM77,100から2020年にRM92,300
一人当たりのGNI:2020年までにRM54,100
月の平均世帯所得:2014年のRM6,141から2020年にRM10,540
対GDPの雇用者所得:2015年の34.9%から2020年までに40%
マレーシア人の幸福指数:年1.7%上昇

民間投資成長率:9.4%
民間消費成長率:6.4%
公共投資成長率:2.7%
公共消費成長率:3.7%
総輸出の平均成長率:4.6%
2020年までの失業率:2.8%
2020年までの貿易収支:RM573億
対GDPの財政赤字:45%以下

各メディアを見ていていると、全体の40%を占める低所得者層『B40』をいかにして中間所得層へ引き上げるかが、11MPの成否を左右するといった内容が多数を占めている。実際、2014年におけるB40の平均世帯収入はRM2,537であり、政府は11MPにおいてこれをRM5,270へ引き上げることを狙っている。あとは財政赤字の圧縮であるが、GST導入によって今後5年間でRM1,570億の税収が期待され、同時に石油・ガス産業への依存度を15%にまで引き下げることが示されている。

個別事項で興味深かったのが、人口密集地におけるブロードバンドカバー率を95%とすることが言及されている。具体的には、2020年までに主要都市部の全ての世帯でで100Mbpsが利用可能に、さらに地方都市においても50%の世帯が20Mbpsを利用できる環境整備を目指している。また、割高だと指摘されている固定ブロードバンド料金についても、オーストラリアの水準にまで持っていくことが目標として定められている。

参考までに、以下は2020年以降のマレーシアの見通し。
【2020年以降のマレーシアプロフィール】
人口:2020年=3,240万人、2030年=3,600万人
都市化率:2020年=75%、2030年=80%
GDP:2020年=RM1.5兆、2030年=RM2.6兆
一人当たりのGDP:2020年=RM54,890、2030年=RM117,260
世界貿易:2020年=US$26兆、2030年=US$44兆

マレーシアは、東南アジア諸国内においてベトナムやミャンマーなどのように高い注目浴びているわけでもなく、進出先企業として見た場合でも、労働コストの高騰や急激なリンギ安、ブミプトラ保護政策による不平等競争、野党躍進による政治不安といったネガティブな要素も抱えている。ただ、5ヵ年計画を基礎として着実な経済発展を続け、2020年の高所得国家入りが視野に入るまでになっている。なにより、マレーシアという国が5年後に目指そうとしている目標値や方向性が明確に示されていることで、企業としては事業展開しやすい環境であると感じる。個人的にも、2020年にマレーシアが11MPで掲げた数値目標をどれだけ達成できるか楽しみである。

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